1398話 なんで人前で
神戸のとある病院にせっせとお見舞いに通っているので、週に何回か○宮駅で乗り換える。
今日の帰り。
地下鉄から地上に出ようとする階段で、地上から♪ピ〜ヒャラ ピーヒャラ 音楽が聞こえてきた。
このところ三宮で毎回出会う、南米の笛吹き人「アンデスの民(と筆者が勝手にそう呼んでいるだけですが)」か、と思いきや、いつもの「リズムボックスしか伴奏はないわよ」、状態とはちと趣が違う。今日は笛吹きおじさん一人ではなくって、アンデスの民はグループでやってきたかと思いつつ地上へ。
と、大学生と思しき、笛吹き少女1名以下ギター、太鼓ほか打楽器担当、バイオリンなどなどの4〜5人のグループだった。
軽快なリズミカルな曲を演奏しているんだけど、この違和感は何だろう。
笛の女の子はフルートだろうか、大きめの横笛とリコーダーかなんか知らないけれども小さめの縦笛をとっかえひっかえ吹く。打楽器も手のひらでたたく太鼓のほか、金属の棒がずらりとぶら下がった楽器なんかもしつらえ、バイオリンなんかもあるぐらいだから、どこかの音大生だろうか。
「ギター一本、後は声だけ」という駅前の青少年よりは、楽器も高そうだし、ぞれぞれにコードをつないで、ちゃんとスピーカーから音が出るようにと装置もたくさん設置している。
わざわざ寒空の下で、楽器に機材も山盛りで、神戸でもっともにぎわうスポットのひとつであろう○宮の駅前で演奏しているのに・・・なんで、まったく聴く方を意識してないの?というのが強烈な違和感の原因だとわかった。
バイオリンのお兄ちゃんにいたっては、わざわざ自分以外のメンバーの方を向いて、歩道を通る人に背を向けて演奏している。つまり歩道にわざわざはみ出して、歩行者の通れるところを狭くして、かつ歩行者に背を向けてふらふら動きながら、バイオリンから音を出しているのである。
どうみたって、これはスタジオで練習している風景じゃないの。
強烈な違和感で、まったく統制が取れておらず、共鳴しておらず、聴く人を意識しておらず、この演奏って、この後どうなるのか興味がわいてきたので、しばらく見ていたら、乱れとやる気のなさ(ご本人たちはやる気があると思っているのかもしれないけれど)のひずみがピークに達して、ついには曲の途中で唐突に終わってしまった。
けど、誰も「しまった」とか「恥ずかしい」とかいう気配がない。微塵もない(ご本人たちはあるつもりかもしれないが)。
がっくりと肩を落としながら(なぜか私がだ)阪急の方へ向かうと、また息を吹き返したゾンビたちは(ご本人たちは人間のつもりかもしれないが、先ほどの『演奏途中自然消滅』にまったくダメージを受けていないのは、おじさんの目から見ればゾンビだ)演奏を再開した。
怖いもの見たさで、再度彼らが見えるところに行った。
やはりバイオリンゾンビは、歩道に背を向けてふらふらと妖気を撒き散らしていた。そのほかのゾンビは、自分には意識が向いていたが、他とはまったく交流していなかった。
笛の女の子が「リードボーカル的立ち位置」にあるようで、ほんの少し意識していたけど。
あのアップテンポな曲で、ここまでこちらの心を暗くし、体から力を奪っていくのは、やはりゾンビによる新しい人類滅亡への高度な作戦に違いない。
きっと、それなりに長い時間、楽器とつきあってきたのであろうとおもわれる彼らのしつらえである。
しかし、ここまで見事に聴く人を無視するというのは、もはや「能力」と言ってもいいかもしれない。
おじさんは「頼むから聞き手を意識して見せてくれ」と言おうかと思った。(ホントにそう思った)
だって、これじゃ「曲」も「楽器」もかわいそうじゃないか。
下手でも一生懸命なら、それはそれでご愛嬌である。
もし、彼らがそこで演奏していることで、生活かけて吹いている「アンデスの民」が仕事場を奪われたのだとしたら、と思うにいたってますますげんなりした。
すくなくとも、筆者が見ている間、聴く気になって足を止めていた人は一人もいなかった。
早く人間になってくれ〜!
【6日に追記】
上記にえらそうに書いておりますが、翌日自分もまったく同様であったと痛感しました。
人のことを言っている場合ではありませんでした。