1415話 呼吸の中心点

呼吸という行為は、「鼻孔から気道を通って肺に至るガス交換を、肋骨や横隔膜の運動で行っている」なんて説明がつく。


しかし、これだって、周囲の環境と釣り合っているから可能なんである。


潜水して浮上する時に、一気に上がってきたら大変なことになるらしい。水深の深いところでは、全身に強い圧力がかかっているから、押しつぶされたようになっている体内に空気を入れようとしたら、それ相応の高い圧力にしないと吸い込むことができない。


肺の中に高い圧力のものを入れたまま急速に浮上したら、外の圧力が一気に減圧するから、中が一気にふくらみすぎる、というようなことらしい。


つまり、呼吸という行為は、もちろん肋骨や横隔膜の運動だけれど、それは「外気の圧力」というものを上手に折り合っている行為だ、という点をみておいた方がいい。


すると、呼吸というのは気道や肺や肋骨や横隔膜だけの問題ではなく、外気圧と接する皮膚およぼその内側のすべてが関わり合っているものだという景色が見えてくる。


自分の身体を「角を丸めた『ヒトデ』」のような風船として体感し、吸気でヒトデが隅々まで広がり、同時に外の圧力がその形まで引っ張っている感覚や、呼気で全身が均等に圧縮される感覚を味わってみる。


すると、呼吸という行為は「ある一点に向けて収縮する運動(呼気時)と、ある一点から全方向へ均等に広がる運動(吸気時)」の波であるということが、体感してくる。


鼻孔や気道や肺という「器官」での呼吸では見えてこないが、「すべての皮膚の内外の圧力の変化」に注目すると、「そこに集まり、そこから広がる」という一点が現れる。


じゃあ、その一点はどこだ。


有名なあそこだ。