真夏のオリオン方式

潜水艦の戦闘を描いた映画「真夏のオリオン」は見ていないのだけれど、その原作になった「雷撃深度19.5」は読んだ。


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雷撃深度一九・五

著者 池上司


発行元 文藝春秋


『雷撃深度一九・五』(らいげきしんどじゅうきゅうてんご)は、池上司による日本の小説作品。太平洋戦争末期、帝国海軍イ58潜水艦による米国海軍重巡洋艦インディアナポリスの撃沈の史実を元にした軍事フィクション。


作者のデビュー作である。


2009年には『真夏のオリオン』の原案となり映画化され、東宝配給により6月13日に公開された。

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で、何が参考になったかと言えば、戦闘時における潜水艦乗組員の会話である。


生命がかかった状況で交わされる「指示」「命令」「指令」「注意事項」「報告」「返答」の質である。


指示命令や返答回答報告など、一切の無駄を廃し、簡潔明瞭、具体的である。


艦長「潜望鏡深度へ上げよ」


乗組員「潜望鏡深度に上げます」


艦長「海上の状況を報告せよ」


乗組員「敵機機影なし!」



てな具合である。これが


艦長「もうちょっと上の方まで上がってんか」


乗組員「ぼちぼち上げますわ」


艦長「海上の状況はどんな感じかなあ」


乗組員「たぶん、だいたい安全やないかと思うんですけど」


これでは、絶対にその潜水艦は沈められること間違いない。


戦闘時における会話というのは、「私は今これについて知りたい」「私は、この状況の中で、このことについては全責任を持ち、全能力を持って○○であると報告します」「その報告に対して、私は誰々に、何をどの程度、どの手段をつかって、どういうことに注意して、どこまでを命じる」というようなものである。


それに比べると、ふだんの稽古時の会話の、なんとあいまいで、無責任で、抽象的であることか。


「どこがいいですか〜」


「もうちょっと上かなあ」


やる方も、何となくの強さ、何となくの速度。自分が強めだとか弱めだとかの自覚もないし、受け手も「あんまり注文つけたら、悪いかなあ」などと妙に遠慮したり。結局はうまくなれない稽古。


軍隊や戦争を賛美するものでは決してないけれど、戦闘時という「命がけの状況」で採用されている語法というのは、十分に学ぶべきものがあると感じたということである。


というので、この「戦闘時の潜水艦乗り組み員の会話法」を徹底して真似て、チューニングの稽古をする。以下のような会話が繰り広げられたわけであるが、一つ付け加えておくと、施術者と受け手は、今日は徹底して受け手が主導権を持ち、責任を持って自分が快適になるように、施術者を誘導する、という立場を取った。


施術者「頭部、着手します」


受け手「着手点良好 そのままの位置を維持して下さい」


施術者「圧力確認」


受け手「ただいまの圧力 5。徐々に7まで上げて下さい」


施術者「圧力アップ了解!現在圧力7」


受け手「着手点、下へ2センチ移動。圧力点を指先から手のひらへ変更願います」


施術者「手のひらへの変更を行います」


受け手「さらに2センチ下へ移動」


施術者「2センチ下に移動します!」


受け手「絶妙 快適ポイントに達しました、現状を20秒維持して下さい」


施術者「了解!現状を20秒維持します」


受け手「…」


施術者「20秒経過。次の指示願います」


受け手「頭部調整より、頸部へ手の移動願います」


施術者「頸部到着。微速前進」


受け手「その速度を保ったまま、秒速1センチで下へ移動。。。そこで止めて!」


施術者「位置確定します!」


受け手「ぎゃ〜、あああああ、あ〜ん 」


施術者「艦長 意味不明です」


受け手「きわめて快適!やめないで♥」



といった白熱の稽古が行われていたのである。


筆者が、微に入り細にわたって全体誘導していた時よりも、この「受け手が責任者 受け手が指示したことしか施術者はやっちゃだめよ、しかも会話は真夏のオリオン方式」の方が、はるかに熱のこもったきめ細かい、的確な稽古になって、しかも気持ちよさも、変化の度合いもまったく問題なしなのである。


筆者は5分か10分に一回


「艦隊司令部より各艦へ連絡。機関停止(交代のことね)1分前 10秒前 停止!」


と言うだけである。


これだけで上達すりゃあ世話はないわい、と思うが、ふだんよりも上達しているので、世話はほんとに焼かないでいいのである。