連載41回 組み合わせの妙

東日本大震災ボランティア活動記録「本職でボランティア」


連載41 回目


組み合わせの妙

組み合わせの妙 

 岡村さんは美容師である。やりくりしてゴールデンウィーク中の活動だった。もともとそういうことを狙ってきたわけではないのだろうが、私がGWに整体チームに再合流してお会いした時には、理髪散髪は一切しないで、どこの避難所に行っても「顔そり専門職人」として活動していた。そして、これがまた女性に好評なのである。


 私のつたない知識で言えば、カミソリを使えるのが理容師、使えないのが美容師である。こども時代は「女性が行くのが美容室、男が行くのが理容室」と思っていたが、法律上はそんな規定はない。だから理容室のウインドウに時々「婦人顔そり」というポスターが貼っていたりするのは、美容室では顔が剃れないからだと知った。


 そして、確かに人に顔をそってもらうのは気持ちいい。いすを思い切りリクライニングさせ、さらにあごが少し上向きになるように角度を取られる。蒸しタオルが顔に乗せられ、しばしリラックス。泡立てた石けんがはけで顔に塗られると熟練の職人のカミソリが、リズミカルに顔の上を走る。そのうちに、気がついたら眠ってしまうこともあるのが顔剃りの記憶だ。


 「剃り師」岡村は、避難所でまず厚手のマットが布団を用意して希望者を仰向けに寝させる。そしてざぶとんを使い、絶妙な角度にあごを上げさせる。整体をする立場から言うと、ある角度に顔を上向きにすると、頭の中が空っぽになる。避難所とてこの時期になればお湯はある。熱湯でタオルを絞れば蒸しタオルの出来上がり。ここからていねいにていねいに15分から20分かけて剃っていく(待ち人数でやむなく短縮することはある)


 こうやって、「自分のためだけの時間」に浸り、頭を空っぽにしてとことんリラックスできる顔剃りというものは、避難所生活をするご婦人方にとってかなりの「体と気分・気持ちのケア」になっていることを横で見ていて実感する。


 そして20分後には、お肌がつるつるのぴかぴかになったご婦人が一人誕生するのである。しかし、「剃り師岡村」の活動はここで終わらなかった。GWのそのころ、特に豊富な人材を誇る整体チームであった。中にフェイシャルエステのできる市村愛さんがいた。二人が結ばれるのに時間はかからなかった。岡村さんが顔を剃ったら、市村さんがそのままフェイシャルエステを施した。受けた方の満足度はかけ算となった。GW中の限られた期間だけであったが、チーム機能を活かしたなかなかにくい活動だ。


 本業ボランティアは、組み合わせの強みを発揮する。


 たとえば疲労困憊の人に「アロマの香りで癒されてみませんか」と言っても、反応は鈍かったりする。(特に男性。女性はやってみた〜いという人は多かったが)とりあえず「このキンキンの頭をなんとかしたい」とか「パンパンの肩の張りが先決」とか「腰が痛くて」「膝が痛くて」という方であれば、整体・鍼灸など東洋医学系施術が優先する。


で、数10分後に疲れが取れ、張りが消え、痛みが去った時に「アロマもやってみません」となると、じゃっ、せっかくだからとなる。受けた男性もだんだんと気持ちよくなり、最後はうとうととしかけるほどになって「いいもんだね」となる。(逆の順番で効果的な場合ももちろんある)


 単独では受け入れにくいものも、別のものとセットにすると受け入れられ可能性が上がる。いいものなのに、なじみがなかったり先入観があったりして受けいられにくかったりするものを、多様な技能のボランティアがチーム化することで、受け入れやすいものに変えていくこともできていた。


 

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