本職でボランティア 祭りで復活 石巻編

長らく中断しておりました、連載の続きです。


東日本大震災ボランティア活動記録

「本職でボランティア」 



これは一昨年3〜5月に、宮城県石巻市の災害現場でお会いした「過去の災害救援からの経験豊富なボランティア」「さまざまな本職を活かして、被災者に喜ばれる技能・職能ボランティア」のみなさんの活動を、「こんな活動もあるんだ、こんな活動をしている人もいるんだ」ということを多くの方に知ってもらいたいと、大急ぎで本一冊分ぐらいの分量を書き、筆者の関係者にお配りしたものです。とにかく一日でも早く多くの人が読み、被災地にさまざまなプロが駆けつけてくれればという思いで書いたため、内容には筆者の独断や偏見、認識不足や事実誤認も含まれていることをお詫びいたします。また内容はあくまでも二年近く前の当時の状況に基づいて書かれたもので、現状とはずいぶん離れています。当時の様子を知っていただくためにも、ほぼ原文のまま掲載いたします。

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第4章 祭りで復活 石巻

5月4日 太鼓を探せ 前編


 祭り担当のひーささんと、朝、喫煙所で話をする。


「炊き出し出店や青空整体とかけっこう『屋台』はあつまったんだけど、鳴りものがねえ、寂しいんですよ」


八ヶ岳さん、ジョンベ?ジャンベ?っていうんですか、アフリカの太鼓、あれできるらしいですよ」


「ミュージシャン系・エンタテーメント系もけっこう集まるんですよ。でも祭りでしょう。やっぱり和太鼓。祭り囃子がほしいんですよね」


「太鼓、太鼓。太鼓ね〜」


考えながら大学に向かう。ふっとひらめいて電話を入れる。大阪の和太鼓ミュージシャンチームの「打打打団 天鼓」(だだだだん てんこ)の特大太鼓担当の奥田さんがいるじゃないか。(最近は天鼓の事務所の正規の職員にもなって、忙しく来れていないが、道場の会員である)

「もしもし、津田です。ごぶさたです。今、東日本大震災の被災地の石巻に来ています。今から無茶なことを言います。突然ですが、明日の10時に太鼓持参で石巻の神社で祭囃子をたたいてくれませんか。無理を承知のお願いです。がれきに埋まった神社を片づけて、明日そのお祭りなんです。でも太鼓もないんです」

われながらとんでもないお願いである。しかし、被災地入りした精神構造は、「どうせだめだろうからやらない」ではなく、「万一、それがなりたつかもしれないならやったらええやん」であった。


そして、奥田さんはすぐに動いた。


「上の人に話をしてみました。僕らも被災地のためになにかできないかって話はしてたんです。ただ、日程が悪くて。6日に一つ本番が入っていて、明日行って、もし帰りがおくれるようなことがあったら、明後日の本番に穴があいてしまうので。車でも16時間ぐらいはかかりそうだし。5日の夕方に終わって、なにもなくても大阪に着くのが6日の午前中だから…。」


「上の人も行かせてやりたいという気持ちは十分もってはるんですが、ちょっとリスクが大きいので。本番が明後日だったら絶対に行ったのですけど。すいません…」


 いえいえ、これで来れる方がおかしいぐらいなんです。前日に言う私が悪い。


今日の担当は北上地区。4月に日帰りで一回来た関東の美容師・森君と整体チーム3車、合計9名で向かう。


北上地区は、石巻市の北面を流れる大河・北上川の河口付近、北岸だ。津波北上川を5キロさかのぼったところまで流域に甚大な被害をもたらした。ちなみに、児童全員がいることを確認するため校庭にならび、集団下校しようとしたところに津波に襲われ、多くの子どもたちが命を失った大川小学校は、北上川南岸にある。


河口付近といっても、地区の北限は川ではなく海に面しているので、災害対策本部のある北上中学校あたりより海寄りの地域では、家の原型をとどめているところの方が珍しいぐらいの被害である。


最近は、あまり行き先を確定してしまわず、方面のみをラフに決めて、複数の避難所の実態調査も兼ねていくという方式をとることが多い。


北上地区災害対策本部に寄り、社会福祉協議会の梶原さんと行き先の相談をする。


大きい避難所としては、災対本部のすぐ横にある北上中学が近いが、敷地内に仮設住宅が建ち、また中学校再開のため、仮設住宅敷地横の土地に大型テントを立てて、中学校体育館に避難していた人は、そこへ引っ越しするという最中なので対象からはずす。


河口からさらに海側に下った「相川子育て支援センター」に行ってみるということにして出発。


到着するとすでに昼前。グランドでは炊き出しの真っ最中。ここは漁村の人が入っている避難所で、施設も人も明るく元気だ。(あまり死者のいない漁村部の避難所は、一般的に明るくて元気に感じた)


食事も、三班に分けて交代で作っているらしい。で


「○班の時には、つてがあるんだか、けっこういい炊き出しがくるんだべ」


ということで、今日はお母さんたち手作りではなく、大阪のお店が出張してきての炊き出し。メニューが豪華だ。

 1 特製あんかけ山椒風味
 2 フランス料理 牛肉のシチュー
 3 ちらしずし
 4 デザート アイスクリーム


ほぼ全員が施設から外に出て炊き出しに並んでいる。
 

「あんたらも食べなさい、たっくさんあんだから」


ということで豪華炊き出しを一緒にいただく。

 肝心の整体の方は、指定された施術スペースがせいぜい二人分ぐらいしかなく、今日から活動開始の整体の方お二人を残し、別の避難所に向かう。


さらに海沿いに少し走ったところが「大指(おおざし)林業生活センター」だ。ここはしばらく前になべチャンチームが訪問しており「整体のニーズ高い」が「昼間の人数は少ないので、事前連絡が必要」と引継書(避難所別ファイル)に書いてあったところだ。


途中になにやら人でごった返していたところがあったのだが「昼間の人数は少ない」はずなので、先へ急いだが人が集まれそうな施設は他にない。


やはりさきほどのところがそうかと戻る。やはりそこが大指林業センターであった。


若手リーダーの阿部さんに聞いてみると、今日はここに「焼きそば炊き出しトレーラー」が来ており、まもなく演歌歌手のジェロが来るんだそうだ。そこで、ふだんは15人ほどが寝泊まりするだけのこの施設だったが、自宅に住める人も、被災したが近隣の親戚やいとこの家なんかに身を寄せている人も、GWで帰省してきた人も、ちょっと遠くの人なんだけど「おいおい、ジェロが来るべ」という呼び出し電話で駆けつけて来た人も、みんなみんな林業センターに集結中。


漁師として地元に残っていた人も多い地域だったのか、30代の人がとても多く、非常にエネルギッシュな雰囲気だ。生ビールサーバーなんかも設置してあって、みなさんいい気分である。みんながビールを注ぐコップが、時間経過とともに大きくなっていくのであった。


今日から参加の整体組お二人は施設内で施術。津田・吉田・宮本の「チーム新大阪健康道場」は屋外を担当することにする。(外の方が楽しそうだったからだ)


どこからかの寄贈か、自分たちで作ったのか聞きそびれたけれど、プレハブ小屋のお風呂棟があり、美容師の森君はここでヘアカットすることになった。


今までも「理容師=散髪屋さん」の訪問はあったけれども漁師町の奥様の美意識にはフィットしなかったらしい。やっぱり女性は美容師なの、ということらしい。そこへ「都会の美容師が来たぞ!それいけ〜!」というので、風呂棟の外にはまたたくまに茶髪奥様の5〜6人の順番待ち列ができた。待ち時間を利用していすに座ったまま整体を片っ端からほどこしていく。


おりからの好天。気温もぐいぐいと上昇する。風呂棟をのぞくと、森君が


「ここ、あ、あ、あ、暑いです」と悲鳴を上げている。


プレハブ小屋の窓はふつうの窓ガラス。そこに脱衣場もあるので、窓はシートを貼って目隠しにしているせいで、開けることができない。密閉容器状態。すると


「なんだ、暑いべ。はがせばいいべ」


と、若い漁師さん(かどうかは知らないけど、つなぎの作業服の人)がまたたくまにべりべりとはがしてしまった。


海の男のやることは、いちいち豪快である。
 


焼きそばの炊き出しは、千葉県のレンタカー会社の人たち。ジェロが遅れているらしく、その間、千葉ロッテマリーンズの球場DJをやっているという人があれこれしゃべってつないでいる。


なにゆえジェロが大指林業センターなのかというと、あの明友館の隊長(確か千葉さん)とのご縁である。


隊長の「僻地・支援物資が届いていない地域へバイク便作戦」の対象の一つに大指があったようである。隊長の底知れない人脈の一つで、明友館にジェロが来ることになり「阿部ちゃん、ジェロがくるべ、大指でも歌ってもらうべ」ということになったらしい。

無事ジェロが到着して「津軽平野」など数曲を披露。歌い終わった後は、せっせと握手とサインをしている。


ジェロや焼きそばトレーラーが撤収する前に、マリーンズDJの人が司会して、やきそば炊き出しの代表の人が屋台カーであいさつ。簡単なあいさつの締めとして『がんばれよ〜』と叫ぶ。なんか、上から目線ってほどではないけど、微妙にずれているように感じていたら


「お前もな〜!」


と、返されていた。海の男のリアクションはいちいちストレートである。


被災された方は厳しい、大変、それは本当なのだが、ほんとうのところ、どう大変なのか、何がつらいのか、どう立ち向かってるのかというのは、地域によって家族によってその人によって千差万別である。「がんばれ」という言葉自体がはたして適切な励ましの言葉なのかという議論は別として、もし何らかの言葉をかけるならば、被災された方々が自分たちの状況というものを心を開いて語ってくれた後であろうと感じるのだ。


ここまで、午後いっぱいずっと屋外で、「整体焼け」という不思議な日焼けだなあ状態の筆者であったが、ふと施設の建物自体には一度も中に入っていないことに気づいた。


一歩入って目が釘付け。朝から話題の中心だった「和太鼓」がど〜んと鎮座してあるではないか。しかも二つも。


阿部さんは、急遽石巻市内に出かけていなくて、阿部さんのお父さんを探して声をかけ、さらに会長(何の会長かはわからないのですが)の佐藤さんが来てくださったので、渡波大宮神社のお祭りのことをざっと説明し、太鼓を貸していただけないかと申し出る。


佐藤会長は、すぐにそれぞれ関係の役員の方にも話を通して了解を取り付け、さらに二本の横笛も探してきて気持ちよく貸してくれたのであります。


ひーささんに電話を入れる。出なかったので留守電を吹き込む。 


「あのね〜、太鼓が見つかったよ〜。笛も二本ありますよ〜。たたける人はいないけど」


温室お風呂棟で、ほとんど休みなしのぶっ続けでカットし続けた森君。大指・カットご希望おばあさまから子どもまでのご一同様の髪型を、ことごとく今風・都会風にして大好評。彼のお仕事が終わるのを待って撤収。軽自動車の後部座席を倒して荷台にして、宮本くんと太鼓を一緒に積み込む。



「さ〜て、太鼓も笛も見つかったし、後はたたける人やなあ」


と助手席の吉田くんと話していたら、余分に筋肉がついた体を窮屈にたたんで、太鼓が転がらないように後部荷台で支えながら、宮本君が切り出した。


「あの〜、僕小学校の6年間地元の祭りばやしを練習してましたー」


「そんな大事なこと、はよ言わんかい」


「五年生の時には賞も取りましたー」


 おおお、笛太鼓併せて4名必要なところに、早くも一人見つかったぜ。


「すごいやないかい」


「はい、【楽しく叩けたで賞】もらいましたー」


それって、技量の優劣とほとんど関係ない参加賞に毛が生えたもののような気もするが、まっいいか、貴重な叩き手だ。ということで、宮本君は、後部座席の荷台で、大学に帰るまでひたすら祭り囃子を練習するのであった。


大学に着いたので。横笛を一本取り出して吹きながら整体チームのミーティングに向かう。筆者の趣味の一つは尺八なので、とりあえず横笛でも音だけは出るのである。なんせまだ笛の吹けるメンバーが見つからないんだから、こうやって吹いていたら心得のある人から声がかかるかもしれないという可能性にかけているのである。


6時半の「整体チームミーティング」で、太鼓が見つかった話を報告し、お囃子ができる人がいないのかなあと声をかけると、なんと「一剃り入魂 顔剃りの鬼」の理髪士岡村さんが「実は祭りばやしを教えていまして…」とのこと。


関羽張飛と出会っていく三国志劉備玄徳のごとく、志村喬演じる勘兵衛が、勝四郎、七郎次、平八、菊千代らと出会っていく「七人の侍」のごとき心境の筆者である。


きっと明日までに笛も見つかるという確信も出てくるのである。


別にお祭りで、急造の「お囃子バンド」がやりたいわけではないのである。急造でも、ちょっと下手でも、とりあえず「太鼓と笛がありまっせ」というのをアピールしたいのである。そうすれば、きっと地元でやっている人が出てくると思うのである。


そして、県外者が主体になっているお祭りに、ちゃんと地元の人が叩いて、吹いて、そして地元の人が、毎年聞いている地域に伝わるその音を今年も聞いた、という場面に出会いたいのである。


復興支援協議会の会議でも、「お囃子できる方募集」の声をかけて、今日できることは終わり。


南境生活センターに戻ると、武蔵野美術大学メンバーらを中心に、おみくじやゲームの景品づくり、看板書きなどをしている。キッチンに行くと、今ちゃんが「この部屋に入る人は突いてってね」と明日出店する「あわもち」をついている。いろんなセクションが、真剣に準備をしている。


ちなみに、我が整体チームは、私設避難所となっている休業中の「ラブホテル・まりな」の被災者のからだのケアに行ったり、施設避難所なので物資の配給対象から外れているために、聞き出した不足物資を届けたりするうちに、支配人ときわめて親しくなったらしい。


ボランティアさんのために、宿泊用として一部屋提供します、ということにもなっているらしい。そういう関係にのっかって「では明日のお祭りでは、コスプレで華やかにマッサージということで」とナース服やメイド服、女子高生制服などを借りてきたらしい。


祭りを盛り上げようという気持ちはわかるけどさ…、誰が着るの。

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【新大阪健康道場からのインフォメーション】

近づいてきました、進化体操3月合宿
3月22日〜24日(一泊二日参加可能)

兵庫県宍粟市一宮町スポニックパーク一宮

http://ameblo.jp/sinkataisou/entry-11483138858.html