元フリーター家の買い替えに参加する

フリーター家を買う

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

フリーター、家を買う。 (幻冬舎文庫)

を読む。

有川浩の書名にだまされてはいけない。「図書館戦争」なんかは内容とタイトルが一致している方だけど、内容が全く読み取れない作品も多い。

阪急電車」なんかその代表。書店に平積みされていたけど、最初は電鉄のことを書いた本かいなと見むきもしなかった。


回り回って「空飛ぶ広報室」につながっていく自衛隊SFの三部作、「塩の街」はまだかろうじて中身を指しているけれど、「海の底」と「空の上」に至っては、有川浩のファン以外が手に取る可能性を拒否しているのかとさえ思う。そう逆ギレしたくなるぐらいこの三冊は面白い。で、この三冊を読むと、「くじらの彼」を存分に楽しめる。


そうやって「自衛隊の内幕」にどっぷりと浸ると、「空飛ぶ広報室」を思い入れたっぷりに楽しめるのである。


で、問題は「フリーター家を買う」である。


書名は以前から知っていた。ドラマか映画にもなっていたし。でも読まなかった。書名でカチンときたからである。


「フリーターが家を買えるはずないやんけ」


夫婦共稼ぎだって大変なことである。昨今の世相を鑑みればますます庶民には縁遠い話である。書名が中身を指しているのであれば、これはフリーターが家を買う話である。しかし、筆者はフリーターが家を買うことに成功する話を読みたくない。そんな甘い話があってたまるかと思う。


しかし、未知の飛行生命体による人類の危機に立ち向かう少年と女性戦闘機パイロットを軸に、少年の幼馴染の少女やメーカーの技師のほのかな恋愛などもきっちりからめた痛快作品に「空の上」という「確かにそのとおりですが、なんぼなんでもあっさりしすぎと違いますか」と突っ込みたくなる平凡なタイトルをつけてしまうのが有川浩である。

もしかしたらこの一冊もそういう「そこの浅い作品偽装タイトル」ではないかと思い読んでみた。


筆者の勘は正しかった。家を立てるのはバイトには無理だった。だから「元フリーターその後正社員家を買う」が正しい。しかし、そのタイトルではさらに当たり前すぎて買う気にはならないだろう。


しかし、家を買うのにも実に切実な理由があるのである。さらにその理由の中に筆者と年齢の近い主人公の仕事バカ、家庭を顧みない父親がかかわってくる。これがリアルでぐっと迫ってきた。もっと家庭を顧みないといけないと切実に思った。


世間をなめたガキが、トントン拍子に家を買えるバカバカしい話ではなく、世間の実際に直面した若者が成長しつつやっとのことで家の買い替えに一部参加するというリアルでシビアな、大変に面白い一冊であった。


だからこそ言いたい。こんなに面白いのに、こういう書名を付けられると、書店でスルーしてしまうではないか。ゆえに読者諸兄に言いたい。有川浩作品に騙されてはいけない。作品の傾向はいろいろなので、好みはあるだろうけど、きわめて面白い本がたくさんあります。